小説書こうよ!BL小説の書き方
記事タイトル ペン

小説を書くことについて……本音を言っちゃうぞ。

待ち受ける商業小説のシビアな世界

  •  一つ思うことがありまして。
     ネットから商業へのスカウトって、ここ数年で一気に加速していて、つまりそういうデビューの仕方って、まだ新しいんですよね。
     で、ネットで流行っていたものと商業で流行っていたものって、これまでちょっと傾向が違っていたんです。
     だから、ネットからデビューしてきた人たちが書いているものって目新しくて、これまでの商業BL小説ファンの読者さんからすると印象が鮮烈なんじゃないかな? と、思います。
  •  だけど今もう、ネットからの流行の逆輸入で、もともといらしたベテランの小説家さんたちが、ネットで流行っているネタでも小説を書き始めています。
     この人たちは、さすが生き残ってきているので、とても小説が上手いんですよ。
     みんなよどみない文章書くから見てみてくれよ。構成も図抜けてるからな。そのうえ締め切りも守れるんです。隙がねえんだ。
  •  こういう方々は一級品の技術者で、工場製のお菓子も、パティスリーのお菓子も、お手のもので作ってきます。
     この人たちがBL小説という界隈を支えていると私は日々感じます。
  •   新人さんたちは、こういうめちゃんこ上手い人たちと、そのうち、シェアを競うことになるわけです。すごく大変なことです。
  •  作家同士はライバルというわけではありません。
     なぜならBL小説という一ジャンルは、少人数の作家ではとても支えきれないですから。何十人、ときには百人以上の作家がいて初めて、成り立っているジャンルです。
     つまり私という作家も、多くの作家さんの存在によって生かされているんですよね。
  •  そうはいっても、読者さんのお財布は限られてます。そこは資本主義の厳しいところ。
     ゆえに、ある程度「選ばれるかどうか」という過程が存在してしまいます。
  •   ネットからデビューしてくる方々の強みは、題材のキャッチーさ、鮮烈さ、フレッシュさ、あとはもともと読者さんがついていることだと思います。
  •  でも題材のキャッチーさは他の作家さんにも流用されます。鮮烈さは題材が消費され尽くされるとなくなります。フレッシュさはそもそも数年で消えます。もともとついている読者さんも、これだけ書き手が多いと分散されてしまうでしょう。
  •  最初に持っている強みは、数年以内に消えてしまう儚いものに思えます。
  •  逆に公募から入ってくる、いわゆる一般的な出版社の投稿窓口経由でデビューする作家さんたちの多くは、文章が上手い傾向にあります。一定レベルの作品を書けないとデビューさせてもらえないので、技術を叩き上げてくる印象です。
  •  ただ、個人的な見解だと、出版社の投稿窓口経由でデビューするのって今の時代なかなか難しくなってきていると思います。
     もちろんこれからも絶対絶対! BL小説界隈を盛り上げるために、出てきてほしい。絶対にいてほしい存在ですが、投稿の構造上、どうしてもスローペースになるだろうなと感じます。(それが悪いとは思いません。そのぶん、上手い状態でデビューできるのですから)
  •  ただ、そうなると、やっぱりネットからデビューされる方が今後はますます増えていくだろうし、そもそも作品が既にあって書籍化する分、スピード感が早い印象です。
     だからこそ、そのルートで作家になった人にも、技術的に見劣りしてほしくないんです。
  •  もちろん、スカウトされて作家になった人の中には、最初からかなり上手い人も大勢いらっしゃいますが、なにぶん数が多いので、全員が万全の状態ではないという現実もあるでしょう。
  •  で、またまた話が戻りますが。
     家庭のオーブンでお菓子を焼いて出しているあなたは、もしかすると技術的にはつたないかもしれないけれど、他にはない味わいを持っていると思います。
  •  でも、まだ荒々しい。ときによると、自分の味わいを、自分でも分かっていない場合もあります。
     先ほども書きましたが、編集者さんの多くは悩むと思います。
     この味わいを残すために修正を課さないか、あえて冒険して修正させるか。作家が抵抗したら、編集者はたとえ雑味があると分かっていても、味わいを残したまま出版する方向を選ぶでしょう。だからしつこい修正指示は、基本的に出ないと思います。
     (出されますけど!? という方は、すいません。それはある意味、幸運な可能性もあります)
     でも、直さずに出してしまうということは、家庭用のオーブンで焼いたお菓子のまんま、市場に出すってことでもあるんですね。
     しばらくは、べつにそれで構わないと思います。
     逆に新鮮に読んでもらえるかもしれない。市場に家庭のお菓子はそんなに出回っていないですから。
     でも、三年目、四年目はどうだろうか?
     五年目、六年目は……?
     他にもネットから、作家さんがどんどんデビューしてきますよね。
     同じように家庭のオーブンで焼いた、雑味はあるけど味わいの面白いお菓子が、それも目新しいお菓子が並んでいます。
     それと一緒に、ベテラン作家さんたちが焼いた、工場製のお菓子やパティスリーのお菓子も提供しています。
     最初の一冊よりも、作品を綿密に仕上げていかないと、もしかしたらだんだんと読んでもらえなくなる可能性もあるのじゃないか。
     私はそこのところを、危惧してしまうんです。
  •  厳しいことは百も承知で、欲を言えば、雑味をとりつつも、作家性や味わいは残した作家になってほしい。
     最初から全部大直ししろという話ではありません。そいつぁ現実的に、物理的に無理ってことが多いと思うのですよ。(私は幸い最初から大直しできる立場でデビューしましたが、それは十四年前の話です。昨今の出版事情だと、難しそうだなと思っています)
  •  じゃあなんだよ、具体的にどうしろってことだよと訊かれると……これはどちらかというと、精神性とか、姿勢の話をしているのですね。
     ちょっと分かりづらいかもしれませんが、もっと上手くなりたいと貪欲に向上心をもって、目標をもって、作家生活を送ってほしいという意味です。
     今書いている作品を、もっと面白くする方法ってないのかな、と常に考えながら執筆してほしいという意味です。最初から高い技術点を出せというわけではなく、徐々に、昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分、一年目より三年目の自分が、上手くなっていられるように、冷静に厳密に、自分の技術と向き合ってもらえれば嬉しいのです。
  •  私も努力の途上にいて、まだずっとずっと先を目指してるから、一緒に頑張りませんか? いつか大満足の一作を書けるように。
     そんで彼岸で握手しようよ。お互い楽しい作家人生送ったなって笑い合おうぜ。

商業作家として『再現性』を持つ

  •  そして、これはネットからデビューする作家さんだけじゃなく、新人さん全員に伝えておきたいことなんですけど……。
  •  もしあなたが感性頼みで執筆しているタイプだったら、ちょっと注意してください。
     技術頼みで書いている人に、言うことはなにもねえ。
     そういう人たちは一生、書けるから心配ないです。
  •  そうじゃなくて感性頼みの人は、デビューして十年間くらいで、感性を……なんていうのかな、感性を、技術でコントロールできるようにするというのかな。そういうことをしておいたほうが安全です。
  •  私が感性頼みのタイプなので余計にそう思うんですが、感性で書けるうちってなんとでもなるんだけど、感性で書けるのってよほどの天才でもないと、限界がくるんですよ。
     なんていうか、気分で書いているのと同じなので。気分が乗らない~となるととたんに書けなくなります。
     ところが商業作家は、このやり方がなかなか通用しにくい職業です。
     だから、書けているうちに自分の感性を言語化して、方法論に落とし込み、技術にしてしまわないと、不意につまづくことがあると思うんですね。
  •  感性って、めちゃくちゃ曖昧なものなので……。
     そのうえ、経年とともに劣化する可能性を常に孕んでいます。感性が劣化すると、見る間に書けなくなる場合があります。
  •  では、せめてその感性が衰えてもなんとか継続するにはどうしたらいいのか。言語化できる技術を持つこと。衰えても、同じ味を再現できる、再現性を持つことです。
  •  感性頼みで書いてきて、再現性がないと、つまづいたときに立ち上がり方が分からなくなります。
     再現性の技術を持っていれば、感性で書いていた部分をカバーできます。
     感性がみずみずしいうちから、一体どうして自分はこの作品を書けたのか、どうやったのか、なにがよかったのか、自分の行動を振り返り、言語化し、同じことを繰り返せば再現できるように、何度も実験、検証を重ねてみてほしいんです。
  •  少なくとも私は現在、過去にそうやって繰り返してきたことにかなり救われています。
     まあ、書けなくなったらそれはそれでべつにいい、という方も多いので、これは絶対ではありません。
  •  もうこうなると、書くこととは生き方の問題になってきちゃうんだよなあ……としみじみしてしまう。
     そもそも、長く書きたいかどうか、からして既に生き方の問題だしね。プロでずっとやりたいかどうかだって、生き方の問題ですよね。趣味で書いてたって読んでもらえる時代なんだから、こだわることないと言えばこだわることないわけですし。
  •  だから、どう生きたいか、が結局のところ小説の技術をどのように磨くか、磨く必然性はるのか、という問題にかかわってきている気がします。
     好きに書いているうちに自然と磨かれたわ~という場合ももちろんあるわけで、十年後の自分を見据えて目標をもって磨く、というのはやっぱり、ずーっとプロとして書きたいかどうか、そういう生き方を選択するかどうか……なんだと思います。

一歩を踏み出したあなたに

  •  いろいろ厳しいこと言っちゃいましたが。
     最初の第一回でも書いたとおり、私はこのコラムを「デビューしたらプロの作家として続けていきたいぞ!」と思っている方向け、に書いてきました。
     寿命の長い作家になるためには技術が必要である、ということはどうしても避けて通れない話題なので、触れました。
  •  先述したように上手い小説であることと、面白い小説であることは必ずしも同義ではありません。
     つたなくても面白い小説はもちろんたくさんあります。
  •  それでも、上手い小説を書けるほうが、面白い小説を書ける可能性や確度があがるのは事実だと思います。つたなくても面白い小説がこの世にあるのと同じくらい、上手いから面白い小説を書ける、という側面も、あるんじゃないかなと。
     長くやろうと思うなら、技術という武器を身につけておいて損はないかなと思います。
  •  このコラムを読んでいる方が百人いたとして、ずっとプロで書きたいという人は、一人いるかいないかではないか。
     さらにこのコラムを読んだからといって、実際に自分事として受け止めてくださる人は、もっと少ないであろう……と、私は思うんですが、少なくともその数少ないあなたのために、私はこのコラムを書いてきました。
  •  上手くなりたい。商業出版の世界で通用する作品を書きたい。
     できるだけ長く作家として生き、多くの作品を届けたい。
     そのためなら、努力を惜しまない。
  •  そういう人が、次代のBL小説界を牽引していってくだされば、ありがたいことだし、心強いことです。
  •  これがこのコラムの最後の記事になるので、もう、次回また、お会いしましょうとは言えませんが。いつかまた、お会いしたいです。(もう会いたくねえわ、とか言わないでくれ、お願い)
  •  彼岸の向こうで、握手しましょうね。お互いに楽しくやったと笑い合いましょう。
     自分の作れる一番いいお菓子を作ったと、自慢しあいましょうよ。
     楽しみにしています。きっと私は、あなたのお菓子を食べていると思う。
     それではまたいつか。
      きっとどこかで、お会いしましょう!
  • 1