2023.04.20 創作のお悩みに、答えてみますぞ! 2
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こんにちは、樋口美沙緒です。『小説書こうよ!』もついに第九回め。残すところあと一回!
というこのタイミングで、またまた、いただいた質問に答えるコーナーをやらせていただきます。わーパチパチ。(効果音) -
ありがたいことに質問がとっても多く……厳選してもまだまだ多く……だったので、できるだけコンパクト? にいきたいと思います。いやたぶん、無理だけどね。
じゃっ、早速いくぜ!
質問① 主人公以外の恋愛感情を描くには?
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私もBLを書いたことがありますが、いつも受け視点です。ある時、「攻めが受けをなぜ好きになったのかがわかりづらい」という指摘を受けました。
終始受け視点でそれを描写するのは難しく、悩んでいます。
視点を切り替える以外で、何かアドバイスはないでしょうか? (HN RKさん) -
これはね~悩むよね~。
正直、受け視点で「攻めがいつ受けを好きになったのか」書けるようになったら、「私、上手い?」と思っていいです。
いやほんとに。それくらい難しいんです。
でもやっぱり書けたほうがカッコイイので、ちょっと頑張って書けるよう工夫してみるのはいいことですぞ。 -
だからこそ、RKさんは偉いですね……。ここで安易に視点切り替えに逃げず、同一視点で書くにはどうするか悩んでらっしゃるのだから。
すごいぞ!! やれるぞ!! - えー、これに関しては、第七回の取りこぼし編で、雲母視点で要の感情描写をしている例文があるので、それを見てください、というのが回答になるのですが……。
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私も、RKさんと一緒で新人のころは苦労したんです。「受け視点で攻めが今受けを好きになったよ」と表現することに。
そもそもですが。
この問題はまず、作家が「ここで攻めは受けを好きになった。なぜなら攻めは~だから」という、タイミングと理由を決めておかなければなりません。 -
案外この作業が難しく、なんとなく、
「恋愛なんていつの間にか好きになってるもんでしょ! ここって決められないわよ! 理由だってさあ、現実の恋愛を考えてみなさいよ!? 好きなところどこ? って訊かれても大体みんな、全部♪ って言うじゃん! 理由なんて決められるわけないっつうの!」
などと言い訳して、タイミングと理由を決めることができなかったりします。(俺がそーだぜ) - でもな、現実なんかどうでもいいんだよな。(急に横暴)
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再三言ってますが、BL小説は娯楽小説ですから、読者さんが楽しめることが肝要になります。
読者さんは現実を読みにきているわけではない、作者が思う「これって萌えるよね?」というプレゼンを読みにきてるので、作者の萌えのままにタイミングと理由を設定したほうが親切なんですよね。 -
だからまず、タイミングと理由を決めるところからやってみてください。
で、決まったら、あとは受けの視点から「読者にだけ分かるように」書けばいい。大事なのはここで、受けに伝わる必要はないんです。読者さんさえ分かりゃーいいんです。
あっ、今この瞬間気持ちが動いたのね。そしてそれはこういう理由なのね。と。 -
どうやって伝えるか? 受けの視点から伝えるのだから、攻めの表情やセリフ、仕草や動きから伝えるしかありません。
ちょいとやってみましょう。 - 雲母と要のお話で、要が今、雲母を特別な感情で見始めた、と分かる例文を作ってみます。ちょっと前後は考えてないからつじつまが合わんとか、そこは大目に見てくれい。大体こんなふうに書けるかな。
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「お前って……このレシピにネギ、入れるの」
要が突然、そんなふうに呟いてきた。
雲母は手元で卵をかき混ぜながら、「なんで? 入れるだろ」と答えた。
「……や、このレシピにネギ入れる人見たの、お前で二人め」
要はそう続けたあと、どうしてか少しおかしそうに笑った。雲母は思わず、要を見る。
「俺の母親と、お前だけ」
そういや俺の母親とお前、似てるかもな。と、要はつけ足した。
「主に、俺のこと嫌いなとことかが」
「お前の母親がお前のこと嫌いなわけないだろ」
雲母はつい、そう言っていた。要は眼を見張り、どうして? と首をかしげている。
「お前みたいにできのいい息子、嫌いな母親なんてこの世にいない。俺はお前のこと嫌いだけどな」
言い切った雲母に、要はとうとう耐えられなくなったかのように吹きだした。げらげらと笑う要が邪魔で、雲母は無視して作業に戻ろうとした。
要はまだ笑っていたけれど、ふと囁いた。
「そんなこと、初めて言われた」
振り返ると、どこか穏やかな、すっきりとした表情で雲母を見ている。
「ありがと……なんか、気が済んだ」 - うーん、前後がないからあんま分かんないな。正直ちょっと……下手な例文だな……。あとネギて。緊迫感のない、ネギて。すまん。
- まあでも、要の感情が動いていることと、雲母が要の中で特別枠に入ったってことが分かればいいかなと思って書きました。いい例文とは言いがたいけど、大体こういうふうに書きますよってことで。
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要が、母親となにがあったかは知らないんですけど(え!?)なんか確執がありそうです。で、雲母がその特別な枠に入ってきたと思ったら、今度は「初めて」の人になった様子が書かれています。
結局のところ、攻めくんにとって受けくんが「他の人とは違っている」ことを描写するのが大事なんですね。 -
雲母の反応や行動や言動に対して、要が「意外」だと思ってたり、「特別」だと捉えている、という描写を置いていくわけです。
あとはこういうシーンの積み重ねをやっていけば、読者さんは分かってくれます。(丸投げするなよ……) -
まああの、私一応大体どの小説でも、「攻めが今受けを好きになったって受け視点で分かる」ように書いているつもりなので(あくまで、つもり)私の受け視点小説探して、よかったら研究してやってくだされ。
あ! ここだな! だせえ……こいつまた同じテク使ってる……とか思っちゃってくださいよ。 - さあ次いこっかあ!
質問② 専門描写はどこまでかきこむ?
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私の悩みなのですが、私は本業が特殊な専門職です。
それをキャラの職業に使い、リアルな実態を描写したところ、読者から逆に「リアリティに欠ける」「ちゃんと調べてないでしょ?」と批判を受けてしまいました。
確かに、一般的なイメージと舞台裏は違うので、そう思われたのかもしれません。
それが職場の現実なので嘘は書きたくないのですが、読者からそう捉えられるのなら一般よりのイメージに合わせるべきなのでしょうか?
(HN 匿名希望さん) -
んな~るへそ。(なにこのノリ)
匿名希望さんも、その感想をもらったときにはショックだったことでしょう。いや、こっちのが詳しいんだけど!? って言いたくなっちゃうよね。 -
でも、こういうのは意外とあるあるかもしれませんね。結構さじ加減が難しい問題だと思います。
専門業界のことを絶対的に忠実に、詳しく書こう、と思うのなら、それはもう「うんちく小説」というジャンルの一つとして確立できるよう書いたほうがよいです。BL小説兼うんちく小説ですね。 -
そんなこと聞いてねえよ、ってことまで詳細に、微に入り細に入り書いてしまう手法です。
読者さんに、「あ、これはこの人のうんちくを読む話なんだな」と分かってもらえるくらい、細かく細かく書きます。 - いや、そこまでうんちく垂れたくないんだが……という場合は、ある程度、細かいところははしょり、「え、本当にそうなの?」「そんなの初耳すぎるんだが」みたいに思われそうな専門家色は排除したほうが無難です。
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ようは、小説を読んでいる最中に「え、本当にそうなの?」「これって合ってる?」と思わせるような描写はしないってことです。
専門職ならみんな分かっていることだとしても、読者さんは知らないのですから、読者さんの知識レベルを想定して書くのも一つの技術です。
嘘を書いてほしいというわけではなくて、疑問に思われそうなことは書かない選択をする、というだけです。 - どうしてもリアルを伝えたい! という場合は、先ほどあげたようにうんちく小説の形をとるか、そうでなければ「世の中では○○だと思われているが、実際にはこの仕事は××で」のように、読者さんの目線(読者さんの常識)に寄り添った文章を加えることで、「あっ、○○と思っていたけど本当は××なんだ~」と読んでもらえたりします。
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つまり、読み手がどう読むかを想像して書けばいいってことですね。
まあ私も、専門的な業界を書くとたまに間違って書くことあるのであんまり威張れないんですけど、書き方としてはそんなふうに工夫すれば、いらぬ誤解は減らせるかな? と思います。
ちょっとやってみてくだされ!
質問③ 濡れ場に変化をつけるにはどうしたらいい?
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BL小説で書かれている方が望ましい、といつかの公募に明記されていたことについてです。それは、セクシーシーンなのですが…
私が書こうとするといつも同じような流れ、似た内容になってしまいます。
変化をつけたくて書籍などを読んでみるも、圧倒的に男女関係のものしか見つけられず。
樋口先生は作品毎に、どうやって変化をつけていますか?参考になるような書籍などありますか?
(パブリックスクールシリーズ『檻の中の王』のセクシーシーン、最高でした!)
(HN アリオさん) -
褒めてくださってありがとうございます、なんつういい方なんだ。豆が落ちるシーンですかね……?
(気になった方は『パブリックスクール-檻の中の王-』(徳間書店・キャラ文庫)をご覧ください。すかさず宣伝するぜ俺は) -
なるほどふむふむ。
まあ、セクシーシーンは手順(前戯の順番とか……)が似がちですから、変化させづらく感じるのは分かりますぞ。
ある程度は、しょうがないと割り切ってもいいのかなと思いますが。 - とはいえ、濡れ場については第四回でも取り上げたのですが、そこでも書いているとおり、基本的に濡れ場は心理描写なんですよね。
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だから変化をつけようと思うのなら、本質的にキャラに変化をつけないといけません。
濡れ場の描写に限らず、「このキャラならでは」の行動、言動、を考える必要があるということです。 -
そのキャラが本質的にどういう人なのか分かっていれば、濡れ場だって、どういうシチュエーションでどんな行動をとる人なのか、が変わってきますよね。
怒っているときと、喜んでいるときで、性行為への姿勢がどう変わるのかとか。
そもそも、どの行程が好きなのかとか。
性行為自体、どういう価値観で受け止めているのかとか。 -
アリオさんが直面しているのはセクシーシーンの問題だけではなくて、もしかしたら描写の幅や表現の幅の問題かもしれません。
そしてそれは、キャラクターの深掘りができていないから悩むのかも……? という考え方もできますが、どうでしょうか? -
手前味噌で恐縮ですが……。
パブリックスクールシリーズに出てくる攻めにはエドワードと、スタンがいますが、二人とも好む性行為が違うだろうな、と作者としては想像できます。 -
相手をどうしたいか、どんなふうに感じさせたいか、感じてほしいか、望んでいることも違うし、性行為のあとにどんなふうに相手と過ごしたいかという理想も違います。
もちろん、受けである礼と、桂人の価値観もそれぞれ違っています。
性行為は二人でやるものなのですから、相手の価値観にも影響されるのが普通です。 - これらは性行為だけの話ではなくて、食事の好み、休みの過ごし方の好み、好きな娯楽……などなど、いろいろなところで「キャラが違えば全部違う」と言えます。
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まずは自分のキャラクターが、どんな行為を好んでいて、望んでいるのか、考えてみるとよいかと思います。それが分かれば、おのずと物語の中で、それぞれのキャラがとる行動は変わってくるのではないか、と思われますよ。
大変でしょうけど、大切な作業ですから、頑張ってみてください!
質問④ 商業でNGな濡れ場描写はある?
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擬音(キスやセックス中なども含む)が好きで、同人誌の場合は自分の好きなように好きな分だけいれてしまうのですが、商業誌では擬音はNGなど縛りがあったりするのでしょうか?他にもこれはやめておいた方が良いという書き方があれば知りたいです。
(HN hさん) -
ふふ……っ。私も、書くことはないですが、読むのは嫌いじゃないですよ。分かります。
擬音多いと、元気だなー!ってなりますぜ。 - でもそうですね~、商業作品では、過度な擬音は基本的にNGですかね。そもそも擬音に頼るというのは、視覚情報に頼ろうとしている、しかし小説に視覚情報はほぼないので、読者さんの脳内映像に頼ろうとしている、ということになる一面があります。
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それでいて、読者さんの脳内映像がどんなふうに出力されるか、書き手はコントロールできません。なので、そもそもそういった書き方は小説として成り立っていない、ということになります。
趣味の小説なら存分にどうぞ、ですが、お金をとる商業小説としては、ちょっと厳しくなりますよね。クオリティが読み手頼り、ということになってしまうので。 -
あとはハート喘ぎ、濁点喘ぎ、過度な淫語……などもネット小説ではよく見られますが、商業小説ではあまり見ませんね。というか、ないんじゃないのかな?
今後出てこないとも言いきれませんが、通常の日本語の文法の範囲内でエロスを追求できたほうが、作家としては文章能力の向上に繋がるかなと思います。 -
そのほか商業で難しいことというと、世の中の倫理観的に高校生未満の性描写もNGでしょうし、過度なグロ描写も難しいかなあ。
こういうのが書きたくてたまらない方は、趣味でおさめておくほうが無難かもしれません。同好の士とのみ、楽しむというか……。 - 少し話は変わりますが、異世界ファンタジーで主人公が前世日本人とか、日本から転移してきた、という設定じゃない限りは、外来語は控えめにしたほうがいいかなと思います。
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たとえば、『コンセプト』とかね。もっと身近なとこで言うと『スリッパ』とかもちょっと厳しくないか? と思ったりします。
舞台が近世っぽかったらいいのかもしれませんが。中世に近かったら、かなり言葉選びに慎重にならないと、世界観が崩れてしまうというか。
それから現代的な言い回しも避けたほうが無難でしょう。
パッと思いつくのでは、『賢者タイム』とか?
このあたりは作者のセンスの問題でもありますが、個人的には、ファンタジー小説を書くときは外来語や現代的な言い回しは極力減らすようにしています。 - さて次にいきますか!
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