小説書こうよ!BL小説の書き方
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小説が、一冊の本になるまで

一冊の本ができるまで

  •  さあて。
     それじゃあ話題を変えて、ここからは一冊の本ができるまで、について追っていくかねえ。
  •  書籍化を経験された方は、うっすらと分かっているかと思いますが、これから経験するぞ! という目標のあるかたは、こんな感じなんだ~と、いっちょ読んでやってください。
     とはいえ、これは私が知っている範囲のことなので、例外などもあると思います。
     それでも大体は、同じ流れで一冊の本ができあがっていくはずなので、ご参考までに。
  •  初稿の原稿が書き上がりますと、まずは編集さんから改稿指示があります。
     これには基本的に、できるだけ応えることをお勧めします。
     ベテランなら別ですが、新人のうちは素直が取り柄と思って、よっぽど無理筋なこと以外は、吟味して修正にあたってほしいです。
  •  いやほんと、案外自分で自分の小説を読み返しても、欠点て分からないもんなのよ。人に指摘してもらえるって最高の環境ですから。
     どうしても納得いかないときは、編集さんに改稿指示の意図を訊いてみるといいと思います。納得できれば、改稿もしやすいはず。
  •  改稿指示は一回で終わることもあれば、何回か続くこともあります。たくさん指示が出ても、自分を責めたりしないでくださいね。作品がよくなる手応えがあるなら、よしと思ってやっていきましょう。
  •  で、修正原稿にオッケーが出たら、大体校閲さんがチェックして、文法ミスやつじつまの合っていないところを指摘してくださいます。
     ありがてえこった。
  •  それを、大半の場合は編集さんが必要なところだけを切りとって伝えてくれるので、それに合わせて微調整していきます。
     私は一度、校閲さんが手を入れてくださった原稿を見せてもらったことがありますが(あ、もちろん自分の原稿よ)、すげえ緻密さだったよ。
  •  普段私が受けてた指摘って、物量的には百分の一くらいだったんだな~と分かって、心から校閲さんと、取捨選択してくれている編集さんを尊敬しました。
     ありがてえありがてえ。
  •  こうして修正が終わった原稿は「ゲラ」という状態になって、作家のもとへ戻ってきます。ゲラは、ようは本になったときのページ数とかデザインとかが反映された状態のものですね。
     そして作家は、ゲラを読んで赤ペンを入れ、修正いたします。出版社によっては、これが作家のやる最後のチェックになることもあります。
  •  一応、このあとも再校ゲラ、三校ゲラ、白焼きなどが出てくるようなのですが、作家がチェックするのは再校ゲラくらいまでで、それ以降は担当編集さんが一人でチェックして、不具合があれば連絡してくださり、修正をかけることが多いかな?
  •  会社によっては、白焼きまで作家が見る場合もありますし、それは出版社や編集さんの方針によりますね。
     ただ、白焼き以降の修正は、コストが発生する場合があります。(たぶん)
  •  そう、お金がかかるんだよ~。無料じゃないんだよ~。 
     だから最初の段階でできるだけ修正はちゃんとやったほうがいいですよね。
     出版社も会社ですから、余計なコストはかけたくないのが本音でしょうし、作家側も負担をかけたくてかける人はまずいないでしょうから。
  •  BL小説だと、この間にイラストレーターさんが表紙の絵や、挿絵を描いてくださいますよね。
     まったく、文章を絵に起こしてくれるなんて神だよ、我々は果報者だ。
  •  そうして絵も文章もそろい、装丁デザイナーさんがデザインをしてくださったら、いよいよ印刷です。
     印刷所さんの出番です。一生懸命刷ってくださいます。
     ちなみに細かいことを言うと、印刷するにも紙がいりますから、紙の調達という大変なお仕事も入ってきますし、さらに言うと紙を調達するにも問屋さんがいて、製紙会社があって……うんぬんかんぬん。
  •  そして作家が原稿を書いて渡して、印刷をかけて……というさなか、出版社では編集さんが営業さんや書店さん、会社の広報や販売部などと打ち合わせをし、ときには社長決裁のために熱く作品を推してくださったり、どのくらい本を刷るかとか、どこの書店にどれだけ卸してもらうかとか、どうやって宣伝するかとか、今この本を出す意味はこれこれこういうものですとか、そういう調整をたくさんたくさんしてくださっています。
      社内でも、大勢の人が一冊の本のために動いてくださるんですね。

担当編集との付き合い方

  •  時々、本当に時々ですが、新人のうちに、編集さんと対立してしまう方がいらっしゃるようにお見受けします。
     いや、気持ちは分かるよ!
     そういう方はたぶん、相性の悪い方にあたってしまったり、自分の作品を悪く言われた気がしていたり、いろいろと対立にも理由があるのだろうし、編集さんの中にも、ごくごくたまに適切な態度をとれない方もいらっしゃるのかもしれません。
  •  でも一回、相性が悪かったからといって、諦めないでほしいのです。
     編集さんを変えてもらうのか、話し合いを持つのか、それとも別の方法を模索するのか……場合によって違うとは思いますが、きっと打開策があるはずです。
    (この話はとても繊細なので、ここでは深く掘り下げませんが……なんにせよ、もし編集さんとの間に葛藤を抱えている場合、最終的にどうするかはべつとして、一度はコミュニケーションをとることをお勧めします。相手も人間ですから、人と人として話し合うのが最初の一手かなと)
  •  大半の編集さんは、作品を世に出すために、原稿を読んでアドバイスをするだけではなく、どういう形なら読者さんの目にとまるか、どなたにデザインを頼めばその本が売れるか、どうやって会社の様々な部署の人たちに、気持ちよく本を売る手伝いをしてもらえるか、考え、コミュニケートし、ときには頭を下げていらっしゃると思います。
  •  いくら仕事でも、自分の嫌いな人には心からは協力したいと思えないですよね?
     でも、信頼している仲間の頼みなら、助けてあげようと思うものです。
     編集さんが周りに味方を作ってくれているから、作家の本が世に出ていくのだと思います。
  •  だから私は、原稿を書くまでは私の力だけど、本が世に出るときは自分の力というよりも、編集さんや、その周りの方々が、頑張ってくださったんだなあとしみじみ感じます。

一冊の本が読者さんに届くまで

  •  さあ、そんなわけで本ができあがると、出版取次という出版社と書店を仲介する会社がありまして、そこに本が運ばれていきます。
     最近では、ここを通さずに書店にそのまま送られるケースもありますが。
     そして全国の書店さんが、出版取次さんに「この本をうちで売りたい」と注文してくれると、初めて本が書店の棚に並ぶわけです。
  •  ここで頑張ってくださるのが、出版社の営業さんや、広報、宣伝を担う方々です。営業さんたちが書店を回り、今度出るこの本、棚に並べてくださいとお願いしてくださったり、ネットの広告や差し込みチラシなどを作って、今度こんな本が出るよ! 今この本がお勧めだよ! と紹介したりしてくださるわけですね。
     もちろんここでも編集さんが、フェアをやりたいとか、こんな宣伝を打ってもらいたいとか、掛け合ってくださっていて、それを受けてみなさんがチームワークで動いてくださっていることがほとんどです。
  •  そして全国の書店さん、ならびに書店員さんたちが、一生懸命本を売ってくださいます。
     ときには手書きのポップをつけ、ときにはSNSで布教もしてくださる。
     本当にありがたいことです。
     やってもやらなくても、お給料にかわりはないでしょうに、それでも本が売れるように後押ししてくださるのです。
  •  そして最後の大トリを飾るのが、読者さんです。
     ええそうです、もはやここまでくると、「一冊の本がこの世に出る」というストーリーの主役は読者さんなのではないか、と私は思うことがあります。
     だってさあ、こんなにたくさんの人が関わって、頑張って、世に送り出した本も、手にとってくれる人がいなかったらフィナーレを迎えられないじゃないですか。
  •  商業というラインにおいては、読者さんがいなければ、「出版」という仕事は成り立たないわけです。
     そしてもちろん、作家、編集者、校閲、装丁デザイナー、イラストレーター、営業、広報、その他多くの関連部署、印刷所、取次、書店、書店員……すべての方々の力が必要です。
     今ここにあげていないだけで、一冊の本が出るまでには、もっと多くの方が関わってくださる場合もあります。
  •  つくづく、本を出すって一人ではできないことです。
     たくさんの人の頑張りがあってこそ成り立っています。
  •  本にするなら一生懸命書かなきゃいけないな、と私が思う理由は、ここにあります。
     さほどの情熱を注がずに書いても、運良く売れた、ということはあるのかもしれませんが、作家の情熱が本当にゼロだったら、その出版に携わってくださる多くの方の情熱も望めないだろうなと思うからです。
     ゼロになにを掛けてもゼロですもん。
     それから、読者さんに楽しんでもらうためにも、私は天才じゃないからこそ、一生懸命書くくらいしかできないな~と思ってます。
  •  なんと言ってもさ、せっかく本を出すんなら、売れないよりは売れたほうがいいじゃん?(突然の下世話)
     だって自分が作家じゃなくて、例えば営業さんだったり、書店員さんだったりという立場でも、売るのを手伝ったなら、売れたほうが嬉しいと思うんですよね。
     かといって売れる本なんて私には作り方が分からんので、一生懸命やるしかない。
  •  偉そうに聞こえたらすみません。はっきり言って私もまだまだ全然で、もっと貢献したいなあと思っている身分なので、いつかご恩返しできるよう、今日もしこしこ書いております。
     みんなで目指そうぜ!
     小説王に俺はなる!(?)
  •  この連載を通して、わりと私、周りに感謝せえ、みたいな説教くさいことを言っていると思うんですが、作家も社会人ですし、商業の場で書こうと思うとそれは仕事なので、ごく普通の社会人のマナーがない人とは、出版社側も仕事しづらいという現実があります。
  •  小説家って、結構誤解されやすい気がするのですが、全然芸術家ではないと私は感じています。
     クリエイターですから、芸術的な一面もそりゃーあるっちゃありますが、ほぼほぼ職人的な仕事だと思っています。
  •  もちろん芸術家肌の作家さんも大勢いらっしゃるだろうし、その方々が素晴らしい作品を書いたりもしているんだけど、だからってみんなが同じにはなれないじゃないですか。
  •  どうやって小説を書いたらいいか分からなくて、私なんぞのコラムを読みにきてくださっているという、ありがたい、お優しい方々は、たぶん芸術家肌というよりは、私と同じ技術屋だろうと勝手にみております。
     己のセンス一本で書ける人は、ハウツーを学ぶ必要はないでしょうし。
  •  芸術家肌のほうがよかったよ! という方。
     私もだよ! ないものねだりしてるよ!
  •  でも技術屋も、捨てたもんじゃないですよ。技術屋のいいところは、再現性の高さです。これについては次回以降、機会があればお話したいと思います。
  •  ふう。なんか俺の恥ずかしい半生を書いただけな気もするぜ。
  •  でもまあ今回はどちらかというと、技術的な話じゃなく、私と小説の歴史(というと大げさですが)と、一冊の本ができる過程を通して、商業作家を目指す方に、今一度「自分と小説は、どういう関係性なのか」、「商業作家として働いていくとき、どんな気持ちで仕事をしていきたいのか」を考えてみてほしくて、長々と書いてみました。
  •  小説を書くということは、自分を知るということでもあるので、一度立ち止まって考えてみる時間をとるとよいかなあと思った次第。
  •  私にとっての小説は、ただ「書きたい」という初期衝動が大事だったし、それが「面白い小説を書きたい」という欲求に変わって、商業作家という形にこだわったわけです。
     そしてプロになってからは、作家といっても一社会人であって、いろんな人に支えられて仕事をしているから、チームのなるべく大勢の人に喜んでもらえる仕事ができたらな、と思っている、という話をしました。
  •  でもべつに、これが万人にとって正解の答えではないし、小説を書く理由やプロとしてのスタンスに、正しい、正しくないはありません。
      大事なのは自分がなにを望んでいるか、知っておくことだと思っています。
  •  まあ、今回のコラムに関してはこういう人間もいるよってことで、一例として見てみてくださると。
     さてさて次は、たくさんいただいている質問から(アザーーーッス!)またいくつかピックアップさせていただいて、解答する回になります。わくわく!
      ではまた次回、お会いしましょう~!
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