2023.05.11 小説を書くことについて……本音を言っちゃうぞ。
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こんにちは、樋口美沙緒です。
とうとうこのコラム、『樋口美沙緒の小説書こうよ! -BL小説の書き方-』も最終回です。(最後だから正式なタイトルをのたまってみた)
ホタ~○ノ~ォ……やめろやめろ権利関係が面倒くさいことになるだろが。
気分は卒業式です。しみじみ。これが掲載されるころ、世間はたぶん入学シーズンも終わったころだと思うけど。
小説上達の極意は「たくさん読んで、たくさん書く」こと
- これまで全十回にわたって、小説の書き方についてくどくど話してきました。一応BL小説を中心に話したけど、キャラクター系の小説なら使える手法だと思うので、BL書かない人にも読んでもらえると嬉しいですぞ。
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なんだけども。なんだけどもね……。
このコラムでは、受け視点固定で書き通せ! とか、推敲のときは音読しろ! とか、細かいことをずいぶん申しました。でもねえ、はっきり言って小説上達の極意は実はすごくシンプルに、「たくさん読んで、たくさん書く」なんです。 - それだけなんです。それができるんなら、私が言ったことなんか全部忘れてもいいくらいなんですよ。
- 私が作家になる前、どなただったかお名前は不覚にも忘れてしまったのですが(すいません!)プロの作家先生に、読者さんが「どうやったら小説が上手くなりますか」と質問されていたのを、ネットでたまたま見かけたことがあります。
- その先生の言葉はいまだに忘れられません。こう答えてらっしゃいました。
- 「たくさん書き損じること」。
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至言! まさにそのとおりだと思います。失敗を重ねただけ上手くなる。
私がわりと現在も、「全ボツ食らっても構わない」というスタンスでいられる、つまり全修正になっても平気であるし、そうなったら全修正する。という心持ちでいられるのは、たぶんこの言葉の影響だと思います。 - 失敗しても、立ち上がれる。もう一度書き直したら、必ずよりよくなっている。
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実際にはすべての作家さんがこれに当てはまるわけではないのかもしれません。
私は修正すればするほどによくなるタイプですが、そうではない方もいるのかな、と思うこともあります。(作家同士でそういう細かい話はあんまりしないから分からんのだ……。あと単純に友だちがいないしさ)(単なる淋しいヤツ……) - でも、個人的には、直し方のコツさえ分かれば、書き損じはチャンスだと思います。自分のことをよく知って、どう直せばよりよくなるのか、経験を積むのが大事かなあと。
- そのためにも、たくさん読むことが必要かなと思います。引き出しを増やし、成功例を頭に叩きこみ、小説の醍醐味を知るには、読まねば始まりませんから。
- たくさん読んで、たくさん書く。直すときにはしっかり直す。
- これを実践できる人は、これまでの九回分全部忘れても構いません。忘れても痛くもかゆくもないくらい、あなたは小説が上手くなると思います。
『商業作家』を『続ける』には
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それはそれとして。
最後だからこそ言っておかなきゃならんことがあるのです。それは……。 -
もしね、俺ァ趣味で小説書いてるだけで、プロになってそれでおまんま食おうとはまるっきり思ってねえんだい、という方は、この先を読む必要はありません。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました! -
いや、趣味じゃ満足できない。プロになりたい、もしくはプロになってる、そして十年二十年と小説を書いて暮らしていきたい。
ずっと商業作家でいたい! 生き残りたい!
という方で、特にネットに小説を発表されている方。
ここから、若干手厳しい、耳に痛い、あんまり言われたくないであろうことを言います。
そういうこと言われると傷つくからいやだわ! という方は、どうぞ私めのことなど忘れて、お引き取りください。聞かなきゃいけないってわけでもねえのだ。 - 耳に痛いこと言われてもいい、聞いてやらぁ! という方は、お読みください。
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あのですね。
このコラムって、小説投稿サイトである、アルファポリスさんのレーベル、アンダルシュノベルズさんのサイトに載ってるじゃないですか?
ということは、たぶんですけど、このコラムを読んでくれていて、かつ小説も書いてますという人のほとんどは、ネットに小説を投稿している人なのかなと思うんです。
いや、出版社の投稿窓口主体だが? という人もいると思いますが。
出版社の投稿窓口主体で投稿生活をされている方には、ちょっと馴染みのない話になります。 -
ネットに小説を投稿している人たちに、言っておかないといけないことがあるんですよ。
非常に言いづらいんですけど、このコラムに書いたことを実践したからといって、ネット上で注目を集めたり、ランキングがあがったりすることは、まあまず、ないと思ってくれ。(バーン) - いや、バーンじゃねえよ。胸張って言うことじゃねえよ。
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うん、ごめん。私が書いてきたことって、あくまで商業作家として十年以上書き続けたいのなら、これができといたほうがいいよ、という前提の話なのであって、ネット上で人気を得たり、ランキングで上位をとる手法ではないんです。
むしろ忠実にやったら、ランキングが落ちる可能性すらある。
これをネットのコラムで書かなきゃいけないことに若干の罪悪感はあるんですけど……現実だから仕方ないのだ。 -
裏返しますと、悲しい話、ネットで人気の小説、ランキング上位の小説が必ずしも技術的に上手い小説、というわけではない、とも言えると思います。
ようするに、面白いからといって、上手いというわけではなく、上手いからといって面白いわけでもない……という現実があります。
もちろん、上手いうえに面白い小説というものも存在しており、これが一番いい小説の形であるのはたしかです。 - 私はネット小説を読むのが趣味だから、ネット小説のことは上手い下手ぬきで好きなんです。ちょうどこの原稿書いてたとき、一ヶ月続く歯痛に瀕死状態の私でしたが、隙間の時間は痛みを紛らわせるためにネット小説を読みまくってました。救われた……ありがとう、ネット小説を書いてくださった方々……。
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そもそも、ネット小説の読者さんて、私も含め、技術的に上手い小説を求めているわけではなく、面白いものを読みたくて読んでるわけで、技術は二の次なんじゃないかなと思います。
だから、ネットの小説に対して、上手くなれとも思ってない。ネットの小説にはそこにしかない独特の“良さ”があるので、そのまんまでいてくれていいと思っています。
ネットの小説で、私が特に好きなところは、商業小説だと削除対象になりそうな無駄がたくさんあること……です。うん、こういうのはここじゃないと味わえないんだよなあ。 -
でもそれはそれとして、ネットの小説が技術的に上手い小説かどうかを問われると……。
平均的には、技術的につたないものが多い、と言わざるをえません。
まあべつに、技術がつたなくても面白く読めるのが、ネットの小説なので、それ自体は問題じゃないのです。ウェブ上にあがってるだけ、なら、なんも気にしなくていい。 -
でも、私がこの問題について、あえて言及するのは意味があるんです。
悪く受け取らずにちゃんと考えてほしいから、言っちゃうんですけど。
ネットの小説って無料で読めます。あと、気軽に楽しめますよね。それ自体はいいことなんです。私も恩恵にあやかりまくってます。 -
でも商業小説の世界で、その……技術がつたない状態で十年通用するか、というと難しいかなあ、というのが本音です。
何冊か、記念で書籍になるとか、流行っているうちに荒稼ぎして、あとは引退します、という働き方ならいいと思います。
それも悪いことじゃありません。確実に出版業界に貢献したと言えると思います。 -
でもそうではなく、長い人生をかけて職業作家として続けようと思うと、技術が必要になってきます。
だってBL小説って十年あれば流行も変わるし、新しい作家も次々入ってくるし、同じくらい書ける人なんてごまんといるし、年齢重ねると体力気力集中力と落ちてくるから、最後に頼れるものって技術力しかなくなると思うんですね。
天才は別ですよ。
天才はこんなコラム参考にならんだろうから己の信じる道を進んでくれ。 - やっぱり、商業の世界で生き残り、それなりに満足して仕事をするためには技術を磨かないと厳しい。技術的に上手い小説が書けるようになることは、必要になってくるんじゃないかなあと思います。
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視点がぶれてる! とか、文法が乱れてる! とか、描写が足りない! とかは、商業作家の中堅どころになると足かせになってしまうんですね。
さっき言ったような「無駄」も省かないといけなくなります。勿体ないけど、やっぱり商業的には要らないところ、作家の自己満足に過ぎないところになってしまうので……。 -
今いる中堅以上の作家さんで、それなりに活躍されている方は、基本的に、視点がぶれたり文法が乱れたり描写が足りなかったりは、まずしていないのじゃないかなと。
そのへんの基礎的な技術は、とっくのとうにマスターしてらっしゃる方がほとんどではないかなと思います。 -
ところが、ネットだと下手に技術がある小説だと、逆に読んでもらえない、なぜか敬遠されることがある気がします。
これはなんでかというと、重たいからじゃないか、と私は勝手に想像しています。
ただの憶測だから違っていたらごめん。
でも、レンチンで作ったポップコーン食べたいときに、高級チョコレートは食いたくねーってやつじゃないかと思うんです。
ただし千円出すのなら、レンチンポップコーンじゃなくて高級チョコレートが食べたいっていうのがまあ、普通の感性というか。 - ネットにあがっている小説って、編集の目も、校閲の手も入っていないので、いわば雑味が多いように思うんですね。それは作家の初稿にも言えることですが。(もっとも、上手い作家は初稿から雑味がほとんどありません。技術によって雑味を取り払えるからです)
- その雑味こそが美味しい場合というのは当然あります。一流パティスリーのお菓子よりも、家庭のオーブンで焼いたお菓子が食べたいし美味しいと感じるときもあります。
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商業BLの小説は、雑味を取り払い、市場に出せるか検討を重ねて並べられた、安心安全な工場製のお菓子、またはパティスリーで焼かれた一点もののお菓子、なわけです。
お金を払ってもらうために作られています。 -
けれども、そのようにして市場に並べるために雑味を取り払った結果、作家性だとか味わいのようなものまで消えてしまう場合もある気がします。
味わいを残すために家庭用のお菓子のまま市場に出すか、たとえ味わいが消える危険を冒してでも体裁を整えるか。
一番いいのは雑味をとって味わいも残す修正ですが、これは難しい。相当な技術と胆力がいります。
編集者さん側も、おおいに頭を悩ませていると想像しています。 - 特にネットに投稿した作品がまるごと書籍化する場合は、雑味の取り方が難しいでしょう。
- というのも、私が見ている感じだと……ネットにあがっている小説って、味わいが強いのですが、そのぶん雑味もかなり残っています。雑味だけを消そうと思うと、もはや一から大直ししなければ厳しいなという作品が多いのです。例えばですが、そもそもの視点から変えたほうがいいとか、文章の書き方を全文見直したほうがいいとか、そのレベルになるなと、はたから見ていて思うわけです。
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そんな大直しをするとなると、修正に時間がかかります。作家にかかる労力も半端なものではなくなってしまいます。
既に作品にファンがいるのに、そこまでするのか? 作家自身もやりたいだろうか? 編集部も、その修正期間を待つ余裕があるのだろうか?
難しい問題ですよね。作家の経験値にはなるけれど、それが作品にとって必ずしもいいと言い切ることもできません。大工事をした結果、作品がボロボロになってしまう可能性もゼロではないですし。 -
ちょっと話が戻りますが。
そういうわけなので、ネットでランキング上位に食い込みたい人は、このコラムをあてにせず、常に上位に食い込んでる人たちの作品を読んで研究したほうがいいと思っています。(身も蓋もねぇ~~)いやでも、マジでそうだと思うんだよ。 -
でもランキングはあくまで通過点であって、目標は作家になって食べていくことなのだ、という人。
職業作家になり、継続したい人にとっては、このコラムは実のある話もあると思うので、参考にしてください。もちろん、参考にして真似てみる中で自分のやり方が見つかって、私とは違うメソッドを確立される方も多いと思う。
それでいいのですじゃ。
というか、そうであってほしいと思ってます。
まず最初は模倣。そして、自分のやり方を見つけるのが正道というものですからなあ。(誰だお前) -
そのうえで、デビューされた方は、ネットで人気が出る小説と技術的に上手い小説は同じではない、ということを少し頭の片隅において、執筆していってほしいと思っています。
個人的な希望ですけれども……。 -
たぶん、ネットからデビューされる方の大半は、ランキング上位を経験しているでしょう。
でも、あなたの小説が書籍化に選ばれたのはランキングの上位にいたからというだけではないと思います。編集者のほとんどは、あなたの伸びしろに期待して声をかけているはずです。
もっともっといい作品を書けるだろうと思われているし、もっと上達するだろうとも思われているのではないでしょうか。 -
なのでプロになって、ずっと書き続けたい希望があるのなら、デビュー後はとりあえずランキングとか人気とか一旦おいといて、上手くて面白い小説を書くにはどうするかを考えて、取り組んではどうか……というのが私の提案です。少なくとも、上手い小説を目指してみてはいかがでしょう。
シンプルに、小説の上手い作家は寿命が長いからです。 -
私……すっごい読んでるのね、ネット上のBL小説を。
毎日十本くらい読んでるんですよ。だからランキング上位の作品なんか百位くらいまでなら余裕で一読してるし、書籍化する作品もほぼ網羅して知ってるんです。(ドヤ顔してるぞ、こいつ……) -
好きな作品が書籍化するときは嬉しいし、うきうき読み直すんです。でも……書籍化されたものの中で、大きくお話が変わっているものはあまりない印象です。
まあそれはそれでよし、と思ってはいるんですよ。
正直、読者が求めているのも、上手い小説じゃなくて面白い小説なんだろうから技術的にどうこうっていうのは無粋なんじゃないか、とも思います。 - だけど、ほんっとーーーに何様!? って感じなんだけど、やっぱり一商業作家なので、ちょっと勿体なく思っちゃうのも……事実なんですよ。
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ああ……ここ、直してたらもっとよかったのになあ……って。
自分がものすごく直すタイプの作家だから、そう思うというのもあるのだと思います。
もちろん、大きなお世話です。それは分かっているんですが、この問題について言及しないとこのコラムって意味がない気がするので書きますね。 -
あまり修正がされていない理由には、ネットの読者さんの期待を裏切りたくないっていうのもあると思います。でもね、現に私という、毎日十本ネット小説読んでる読者が言うけど、おおいに裏切ってくれていいんです。
あなたが躍進できるなら、いくらでも裏切ってくれい。
もう一度惚れさせてほしいんだ。
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