2022.12.22 キャラクターはBL小説の命!
- こんにちは、初めまして。樋口美沙緒と申します。十三年ほど、BL小説を書いている作家です。今回ご縁がありまして、『樋口美沙緒の小説書こうよ! ~BL小説の書き方~』を書かせていただくことになりました。
- このコラムはズバリ! BL小説書いてみたいな~、そんでできれば商業デビューしたいな~、デビューしたらプロの作家として続けていきたいぞ! と思っているあなた! そう、あなたですよ、あなたに向けて書いております。
- 今はまだBL小説を書いたことがない方も、これまでたくさん書いてきたけれど満足していない方も、一度商業で本が出たけれどそのあとが続かなかった方も、よかったら私と一緒にBL小説の作り方を考えてみませんか?
- このコラムでは、実際に私が小説を書くときに、どんなふうに書いていくのか、作り方の順番もそのままにお伝えしてみようと思っています。隔週連載なので、毎度のテーマに照らし合わせて少しずつ作業を進め、連載が終わるころには一本小説を書き上げるつもりで、お付き合いくださったら嬉しいです。
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ではでは、始めていきましょう。
一番最初になにをやるか。今回は、BL小説のキモ中のキモ、「キャラクター作り」に焦点を当ててみたいと思います。
『葛藤』が主人公の心臓
- 皆さんは、小説を書くときどんなふうにキャラクターを作っていますか? 他の小説ジャンルではそうとは限りませんが、BL小説で一番重要な要素は、実は「キャラクター」だと私は考えています。
- とりわけ、主人公――基本的には『受け』、それから恋愛のお相手である『攻め』はもちろんのこと、脇役も二人から三人めくらいまでは、ちょっと特別な気持ちで作家が付き合う相手である、と意識しております。
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ここで問題。
BLの主人公は受けと攻め、どっちがいいですか? と思っている皆さん。お答えします。絶対的に受けです。センターは受けなのです。 - 攻め視点が好きなのに!? とお嘆きの皆さん。分かります。でも、初めのうちはできるだけ受け主人公で書くよう、頑張ってみてください。なぜかというと、読者さんの多くは攻めより受けに感情移入して読むからです。攻め視点で書く場合は、言い方は悪いですが、攻めを「めそめそ」させないと白けたトーンになりがちです。我こそはめそめそ攻めの大家なり、という方は攻めを主人公で書いていくのもいいかと思います。
- 受けと攻め、どちらを主人公にするか決まりましたか? 決まったら、次の段階にいきましょう! お話作りの始め方は人によってそれぞれ違っていて、キャラクターから作る人もいれば、話の流れから先に作る人もいると思います。私はお話の中に流れる雰囲気、感情、いわゆるテーマから作っていくタイプなのですが、実はここがミソで、BL小説における「小説のテーマ」は、「主人公のテーマ」だと考えるのが妥当です。
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例えば、手前味噌で恐縮ですが、昔私が書いた『愛の巣へ落ちろ!』(白泉社・花丸文庫)という作品では、小説のテーマが「明日死ぬ存在でも生きる意味はあるのか」で、主人公のテーマが「明日死ぬとしても自分の生きた事実を残したい」でした。
今になって振り返るに、なんか小難しいテーマだな……。でもお話そのものは難しくないので、よかったら読んでみてください。(すかさず宣伝)コミックスも出ております。(小声) -
小説のテーマ「明日死ぬ存在でも生きる意味はあるのか」
主人公のテーマ「明日死ぬとしても自分の生きた事実を残したい」 - こうやって並べると、小説のテーマ=主人公のテーマなのはなんとなーく分かると思います。頼む、分かってくれ。私は本当は感覚で小説書いてるからあんまり論理的な説明ができないんだ。すまねえがフィーリングで感じ取ってくれ。(横暴)
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まあでもですね、『愛の巣へ落ちろ!』を書いたころはまだデビューしたてで、小説のテーマ=主人公のテーマなんて思ってなかったですし、そもそもテーマは? と訊かれても答えられなくて困ってましたし、キャラメイキングも確信をもってやれてはいませんでした。
だから皆さんも、「そうなんだ~」くらいに感じておいてくだされば十分です。 - それで、小説と主人公のテーマがイコールだと分かった今、私がどんなふうに小説を作るかというと。まず先ほども書いたとおり、作品の中に流れるテーマをふわっとイメージしたあとに(ふわっとイメージってなんだよ。いやほら、切ないお話、とかラブコメ、とかバイオレンスな話、とかそういうやつです)、私はまず主人公から作ります。
- そして主人公の一番ど真ん中にある「葛藤」を決めます。はい、今私は私の持ち札をほぼ全部見せました。気分は丸裸。持ち札少なすぎだろ問題は置いておいて、キャラメイクで私がする一番大事な作業はここです! 主人公の「葛藤」を決めること! 以上、撤収! ってくらいに、もうここでキャラメイクの八割が終わります。
- 皆さんの周りにいる魅力的だなと思えるキャラをちょっと思い出してみてください。そしてその子が内包した葛藤や矛盾がどんなものか、考えてみてください。『赤毛のアン』のアンは、「誰かに求められたい」のに、「男の子じゃないから孤児院に帰されそうに」なりますよね?
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だからアンは、帰されないように必死に頑張ります。
アンのように魅力的かどうかは置いておいて、前述の拙著、『愛の巣へ落ちろ!』の主人公を例えに出すと、「自分らしく生きたい」と思っているのに「寿命が短い種である」という葛藤を抱えています。私が最近書いているシリーズ、『王を統べる運命の子』(徳間書店・キャラ文庫)では、主人公が「生きる意味がほしい」と思っているのに「最初から生まれてくる意味がなかった」という葛藤を抱えています。(盛大なるネタバレしちまったい。どうぞ買って読んでくだされ)
この葛藤が、主人公はどう生きるのか、というお話の根幹になっていくわけです。 - もっと軽い葛藤でもいいんです。BLだから、「エッチなことが大好き」なのに「人と話すのが嫌い」なせいでエッチなことができなくて悩んでいる、とか。こういうキャラなら、「じゃあ話さなくてもエッチなことをするにはどうしよう」と考えて、行動しますよね。
- この、主人公が抱える葛藤は、お話を動かしていく原動力になります。まずはこれを決めるのが私のやり方です。そして、できれば恋のお相手役までは、本人の抱える葛藤を決めてあげると、そのキャラの根っこにあるものが見えやすくなるのでお勧めです。
- 基本的にキャラクターの葛藤は、お話にエンドマークがついたときに、解消されているか、本人が受け入れているか、あえてそのままか、になります。つまり、主人公の内包する葛藤を決めると、お話の最終地点が自ずと絞られるんですね。ああ、手品の種明かしをしている気分でハラハラする……。でも事実だからしょうがねえ、書いちまうぜ。
- ところで、さっき攻めの葛藤も決めましょう、と言いましたが、実際に書くときは主人公の葛藤を優先してください。お話の中心は常に主人公! 脇に魅力的なキャラクターや、お気に入りのキャラクターがいくらいようが、そこを中心にすると全体がぼやけます。だから、BL小説は主人公を軸に動かすよう、意識してみてください。
キャラ設定は内面の投影を意識しよう
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さて、主人公の葛藤(テーマ)を決めたら、それ以外の要素を決めていきましょう。
見た目、名前、年齢、肩書き、性格、人間関係。他者からの評価。そして自己評価。さらには、周りにも自分にも気づかれていない本音の奥の奥にある望みや苦しみなど。私は大体このくらい、決めておきます。 - 小説は挿絵がある場合もあるとはいえ、基本は文字情報だけでキャラクターを伝えますから、名前は大事です。剛野強、という名前から銀髪碧眼、細身で妖精のような容姿、を想像する人はまずいないと思います。大体の人がオレンジ色のセーターを着たガキ大将的な感じの人かな……? と思うはずです。名は体を表すという言葉どおり、キャラの名前はその人の見た目や性格が伝わるものを選ぶのをお勧めします。
- それから、見た目の設定もBL小説では大事です。あえて書かない! と決めていらっしゃる方にはなにも言いますまい、そなたの自由だ。でも書いた方がいいのか悩んでいる方は、できれば髪や眼の色、体格や美醜についてちゃんと小説の中で提示してあげたほうが読者さんに親切です。キャラ作りから話がそれるのですが、BLは娯楽小説ですから、読者さんが読みながら自分で選択をする、という要素をできるだけ取り除くことが大切です。
- 情報を最小限にして、読者さんに頭を悩ませながら読んでもらう手法もあるのですが、それは相当上手くなってから。だから、この人の背は高いのかな? 低いのかな? 髪の色は黒なのかな? 茶色なのかな? と読者さんがいちいち選択し、読み疲れることがないよう、容姿をはっきり書く、というのは意外と大切なことです。
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そして、小説は先ほども書いたとおり文字だけですべてを表現します。なので、基本的には主人公の性格を容姿にも投影したほうが俄然分かりやすいです。
気の弱い子が髪を金髪に染めて耳にピアスの穴いっぱい開けて腕にタトゥーは彫らないでしょう。気が弱い子なら黒髪に、色白、細身、ファッションもあまり垢抜けていないとか、そのへんがよくあるテンプレートですよね。 - ただ、「気が弱い」のに「強く見られたい」という葛藤を抱えている子なら、「髪を金髪に染めて耳にピアスの穴いっぱい開けて腕にタトゥーを彫って」いるのはアリアリのアリです。この場合、ちょっとなにか障害にぶつかると、途端に本来の気の弱さが露見する話の展開になるでしょう。
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なぜ一番最初に、その子が抱えている葛藤を決めるかというと、内包する葛藤によって、見た目やファッション、人に対する態度などもすべて決まってくるからです。
そしてもっと言えば、主人公が抱えている葛藤がないときは、どういう性格で、どういう人生観なのか、まで考えておけると尚いいですね。例えば、拙作の『愛の巣へ落ちろ!』の主人公から、「自分らしく生きたい」と思っているのに「寿命が短い種である」という葛藤を取り除いた場合、どうなるかを考えてみます。 - 葛藤があるから、主人公は無理して本来の自分よりレベルの高い私立高校に入る、というストーリーになっているのですが、べつに寿命も普通だし、自分らしく生きるのも普通のことだから考えたことがない状況だと、地元の、自分のレベルに見合った学校へ入って、平凡に過ごすことを選ぶ。と、思います。
- じゃあそういう子の本質的な性格ってなにかな、と思うと、特別になりたい欲求などはなくて、ただ「みんなと同じなら満足」というふうに見えます。だけど葛藤があるから、自分に見合わないハイレベルな学校へ入る。それでも本質は「みんなと同じなら満足」な子だから、みんなと同じように部活に入ろうとしたり、高校生らしいことをやりたがったりします。
- キャラクターを設定していくと、おそらく、様々な取捨選択に迫られるので、苦しいことも多いんじゃないでしょうか。背が低い、と決めてしまうと、そのキャラは二度と背が高いキャラになれません。この選択は正しいだろうか? このキャラで、読者さんに喜んでもらえるのか? そんなふうに考えて、なかなか決められないこと、ありませんか?
- 私は投稿時代、この気持ちに囚われて、キャラ作りに難航しました。好かれるキャラを作りたい、嫌われるキャラを作りたくないと思ってしまったんです。
- でも、読者さんに理解してもらえるように書くことと、嫌われないように書くことは、似ているようでまったく違います。もちろん倫理的にNGの場合はこの限りではないとして、常識の範囲内でのキャラ設定のとき、「嫌われないために」という理由で要素を選択するよりも、もっと前向きな姿勢でキャラの情報を選んでいってほしいと思います。
- このキャラのこんなところに憧れるから、ここを大事に書きたい、とか。ここはアホっぽいところなんだけど、可愛げでもあるから分かってもらいたい、とか。
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