小説書こうよ!BL小説の書き方
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文章は平易に、描写は適切に、読者さんを迷子にしないように書きましょう

  •  こんにちは、樋口美沙緒です。『小説書こうよ!~BL小説の書き方~』も三回目となってまいりました。さあて今日のお題はなんでしょう。
     前回まででキャラプロットを作りましたよね。私は渡瀬雲母くんというキャラクターと、料理系リアリティショー出演をモチーフにした小説のプロットをたてました。みなさんも素材は用意できたかな? キャラとプロットがそろったら、、いよいよ執筆開始です。いやあ、わくわくしますなあ。
     前回までを読んでないかた、たぶん読んでないと分からない箇所があるので、お時間あるときに遡って読んでくだされ。

執筆のお供は下調べした資料と国語辞典

  •  本文を書く、その前に。
     ほとんどの人は言われなくても分かってるわい! と思われるでしょうが、一応、作品のために資料にあたったり、取材したりの下調べは執筆前にある程度しておきます。私がたてた「料理系リアリティショー」を扱うなら、似たような番組を見ておくとか、節約レシピ集を読んでおくとか、そういう番組に出た人のSNSやブログのチェックなどですね。
  •  下調べ、あまりしない方もいるかとは思うんですが、時々はやってみてほしいです。異世界ファンタジーだから必要ないという方も、どのへんの国のどのへんの文化あたりで書くか、などは決めて、そのあたりの資料などちょっと見てみるといいと思います。
     なんでそんな面倒なことを? と言うと、一冊二冊、書籍化するのが目標なだけならいいんですが、プロとしてずーっと小説を書いてお金をもらいたい、となると、いずれ資料を扱う必要性がどこかで出てくるので、身につけとくとよいよという話です。
  •  このコラムは、毎度言っておりますが、ずーっとプロとして小説を書いていきたい人向けに綴ってますので、こんな些細なことまで口出ししちゃうんですが、ま、気が向いたらやってみてくれよな。
     と、言ってもな~、ネット掲載の小説であんまり資料に引っ張られたものはウケが悪いかもしれないなあと思うので(私の超絶つたない予想であるが……)実際にプロになってから気をつけるくらいでも大丈夫です。
  •  それから資料にあたる癖をつけましょう、というのと通ずるんですが、真剣に小説家を目指している方は、もし持っていなかったら国語辞典を買うのもいいと思います。私は新人のころ、担当編集さんに「辞書は必須です」と言われて、『ベネッセ表現読解国語辞典』(ベネッセコーポレーション)と『新明解国語辞典』(三省堂)を買いました。どちらも使い勝手がいいのでお勧めです。もちろん電子辞書でもいいと思います。本当は類語辞典もお勧めしたいところですが……まあそれはおいおいでも。

執筆の入り口『人称と視点』の選びかた

  •  一体いつまで準備してるんだよ! さっさと書こうぜ! という方。お待たせしました。そんじゃ、いっちょ書き始めますか!
  •  とは言ったものの、書く前にまだ決めることあるじゃん!?
     そうそれは……人称と視点です!!
     いや、もう小説の作法本開いたら、人称と視点の話って絶対ってほど書いてあるからさ。今さら私が説明する必要もない気がするんだけど、これ語らないで「書き方」ってタイトルは名乗れないだろ。
     というわけで簡単に、人称と視点について説明します。知ってるよ! って方が大半だろうけど飛ばすわけにもいかねえのだ。
  •  まず一人称
     これは簡単ですね。主人公が「俺は~」とか「私は~」とかの語り口調でお話を進めていくパターンです。メリットは主人公の心情がよく分かること。デメリットは、主人公が見てないものは書けないところです。
  •  それから三人称
     これは例えば、私のプロットを使うなら、主人公の「雲母は~」などの語り口で、人物からちょっと離れたところにカメラを置いて書くやり方です。この三人称の書き方には、三人称主人公視点(人物視点)三人称神視点があります。
  •  主人公または人物視点は、基本的には外側から見えることを描写しつつ、限りなくその人物の内面に寄せて、一人称に近い形で書くやり方です。メリットは一人称よりは状況を俯瞰できることと、心理描写もしやすいところ。デメリットは、神視点に比べると視野が狭い。それと視点ブレが起きやすいです。
     神視点は人物の感情は一切書かず、外側から見える情報のみ拾っていくやり方。こちらは感情移入がしにくいため、そもそもの話、BL小説で使うには上級者向けかなあ。
  •  個人的には三人称主人公視点をお勧めしたいところ。
     その理由は二つあります。
     一つは一人称と同じく、心理描写がしやすいため、BLに向いているから。
     もう一つは、一人称に比べて視点の固定が難しいからこそ、小説が上手くなるからです。
  •  三人称主人公視点で書いていても、書き方がよく分かっていないうちは、度々他のキャラの視点が混ざったり、小説の中に登場していない謎の存在が突然地の文で語り出すという怪奇現象が起きることがあります。
  •  ええ、そうです。私も新人のころはやらかしてました。
     担当編集さんに「樋口さん、視点がブレてます!」と注意されないと気づかなかったあのころ……。視点ってなんなん!? とよく悶えていました。
  •  一人称のほうが視点ブレが起こりにくいので、一人称で書かせてくれよ、という気持ちは分かります。なので私の言うことに従う必要はないんですが、三人称主人公視点で視点のブレをセルフチェックして修正できるようになると、一人称はもっと楽に書けるようになると思うので、我、小説道を極めんとする者なり、という方はぜひ練習してほしいと思います。
  •  ちなみに、これを読んでくださっている方はネットの小説投稿サイトをお使いの方も多いと思うのですが……。ネットの小説って、わりと視点を変えて書くのが読者さんに歓迎されているな、とお見受けしております。受け視点が数話続いたら、攻め視点が入る……というような構成ですね。
  •  ネット小説の特性上、どうしてもそれが望まれるのは仕方がないと分かっているんです!
     分かっているんですが……!
     それでも、ちょっと一回こらえてみて、最初から最後まで主人公だけの視点でお話を書いてみてほしいなと思っています。
  •  なぜかというと、最初から最後まで主人公で書き通すのって難しいんですよ。せっかく三人称なのに、他の人物の視点が取れないし、結局主人公の眼で見たことを中心に書くから、一人称とほぼ変わらない。なのに一人称よりも心理描写に入る工夫がいる。(でもちょこっとなら神視点が入れられますよ)
     でも難しいからこそ、どうしたら読者さんに必要な情報が伝わるか、上手く伏線を張れるか、心理描写を入れられるか、状況説明を処理できるか、すごーく頭を使います。
     そして何度も試行錯誤して、伝わる工夫をします。重要なのは、ここだと思ってます。
      相手に伝えるための工夫を何度も何度も繰り返す。これが小説が上手くなるコツなんですね。
     投稿時代からデビューして最初の数年って、じっくり技を磨けるまたとない時間です。
     一作一作丁寧に向き合って、「どう書いたら、読者さんに伝えたいことを全部伝えられるか」悩む時間をとってほしいな~、そしたら絶対ビッグスターになるであろう、と、これからデビューされる輝かしい新人さんの原石に向けて、私はつい期待しちゃうわけです。
     まあでも、お話の雰囲気によって一人称のほうがいい場合もあるので、べつに絶対ではないですよ。(それに一人称は一人称で難しいんだよなあ)

擬音語・擬態語の使い方に注意!

  •  おいおいまだ書き始めないのかよ。と、思われてますよね。前置きが長くなってすいません。
     今度こそ本番です。視点と人称が決まったら、最初の一文を書いてみましょう。
     これはもう、作者のセンスそのままの部分ですから、存分にやっちゃってください。特に決まりはありません。
  •  とはいえ、私に限っての話ですが、一つだけ気をつけていることはあります。それは最初の一文は擬音から始めないことです。
  •  ひらひらと雪が降っていた。

  •  とは、絶対に始めません。同じ内容なら、
  •  雪が降っていた。

  •  にします。これはもうニュアンスの問題なんですけど、一番最初に擬音が入ってくると、私の場合、脳内の映像が一瞬混乱するんです。私が脳内に映像を流して読むタイプだからなので、そうじゃない方は気にならないかもしれません。
  •  でも私のように脳内に映像を流しながら読むタイプは、「ひらひらと」と言われると、雪以外にも蝶々なのかなとか、紙が飛んでるのかなとか、いくつかの選択肢がコンマ0.0000001秒くらいの短時間ではありますけど、無意識に迷ってしまうんですね。ちょっとしたことですが、これが続くとストレスになります。(とか言っといて擬音から始めてるものあったらどうしよう、先に謝っておくぜ、その場合はすまん)
  •  基本的に本文中でもこの手の、読者さんが選択に迷う文章、というのはできる限り潰していくようにしています。(全くないとは胸を張れぬが……)
     ただこれは私のスタイルというだけなので、違っても構わないと思っています。
  •  こまけーヤツだな、と思われても仕方ない。でもそうなんです。小説って、こまけぇんですよ。
     特に、ウェブ上で見るとあまり気にならないことが、紙書籍になると気になってくることは多いです。なので知識として、小説の細かさを知っておくのはいいかなと思います。

小説の基本情報は早い段階で読者さんに明示しておく

  •  小説のこまけぇところはまだまだ続きます。
     基本的に冒頭で書いたほうがいいことがいくつかあります。
      簡単に言えば5W1Hです。主人公が「誰」で「どこ」にいて、「いつ」「誰と」「なにを」「どのように」している状態なのか。そしてそれは「なぜ」なのか。
  •  あと、神視点以外の場合は、始まってからなるべく最初のうちに主人公の容姿について触れるほうが得策です。なぜなら、容姿は自分から見えないので、三人称主人公視点や一人称の場合、後ろになるほど描写がしにくくなりますし、読者さんも最初に提示してくれたほうが、分かりやすく読めますから。(叙述トリックみたいなのを書く場合はこの限りではないんですけど、BL小説は容姿をさくっと書いたほうがいいです)
  •  容姿の説明は、おおむね鏡を見るとか、他者との比較とか、誰かから容姿について言及されるくらいしか書き方がありませんが(もっといい方法があったら教えてくれい)ここにオリジナリティはなくても大丈夫なので、ちゃっちゃとやっちゃいましょう。
  •  ちなみにですね、小説の第一章で絶対やるべきことがあと二つあります。
     これは大体文庫で言えば二、三十ページ前後、字数で言えば一万四千字から二万字前後までにやってほしいことなんですが。
     一つは、主人公のキャラだてです。ざっくりどういうキャラなのか、読者さんに紹介する気持ちで書きます。
     それからもう一つは、お話のテーマを提示することです。
     プロットで【テーマ】をたてていれば、そのことを一章の中に出します。

話のテーマを提示する

  •  前回私は渡瀬雲母くんという主人公のプロットを作りました。
     雲母くんは強がりだけど内面は繊細。努力は実ると信じているのにいつも実らず、それでも頑張っている子、という設定でして、お話は親に使い込まれてしまった学費を得るために、料理系リアリティショーに出演し、優勝賞金を狙う、というものでしたね。
     詳しくは前回までの記事を読んでくださると助かります。
     で、そのプロットに沿うなら、おそらく次のような文章を、私は一章のどこかに入れます。
  •  (努力は実るはずなんだから、絶対大丈夫だ。俺はずっとそう信じてやってきたろ)
     雲母は自分にそう言い聞かせた。拳をぐっと握りしめ、気持ちを鼓舞する。とにかくこの番組で優勝するしか他に道はないし、そのための努力を惜しむつもりはない。
     けれど心の片隅に、ふと兆す影がある。
     ……それでももし、努力しても、どうにもならなかったら?
     雲母は慌てて、その考えを頭から振り払った。心臓がいやな音をたてている。自分には努力以外にできることがないのに、そのことさえ否定してしまったら、ただでさえ不安でいっぱいの心がはち切れてしまう気がした。
     弱気になる自分は嫌いだ。だからこそ、優勝を掴み取ると雲母は決め直す。弟と自分、二人の学費のために。そして同時に、もっと強い自分になるためにも。

  •  ここには、お話のテーマが匂わせるように描かれています
     (努力は実ると信じているのに、実らない葛藤を抱える雲母が、結果が伴わなくても努力できた自分を認められるようになる、というテーマです)
     この一連の文章は、プロット編でもお話した、雲母の信念が崩れそうになるときに効いてきます。
     もし努力してもどうにもならなかったとき、雲母の心が絶望に染まってしまうことを、ここで示唆しているんですね。感情面での伏線とも言えますね。
  •  こういうテーマって、最初のほうにぽんと置いておけば、あとはもう書かなくていいわけではなく、話の長さにもよりますが、長編なら三回くらいは出したほうが映えるよね~と思います。
  •  小説って、映像とか漫画とかに比べると、さほど強みがないメディアに見えそうですが、一つだけ突出している強みがあると私は思っていて、それが「積み重ねること」です。
     最初はただ数行の文章ですが、三回、べつの場所、べつの状況で似たことを繰り返し表現すれば、読者さんの心の中にその情報が積み重なります。この積み重ねによって、読者さんは主人公の気持ちや行動への理解度を深めてくれるんですね。
     なので、大切なことは二度、三度と繰り返し書くほうが、お話をより分かってもらえる気がします。
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